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悪戯短篇小説「新語流行語全部入り小説2014」

 

もはや昼間っから暇を持てあましたタモロスのマイルドヤンキーと、地方議員のセクハラやじを書き続けてきたゴーストライターしか住んでいない消滅可能性都市の絶景をバックに、こじらせ女子を卒業した輝く女性がアイス・バケツ・チャレンジを行った。

それはチャリティー活動でもなんでもなく、差せば差すほど濡れるという画期的な新商品「雨傘革命」のCM撮影であった。輝く女性はプロポーズの言葉にまで「集団的自衛権」というワードを盛り込んでくる生粋の自衛官とJ婚した3年後、平板なお腹に向かって「ごきげんよう、ごきげんよう!」としきりに話しかけてくる姑のマタハラに耐えきれず、壊憲記念日に離婚。離婚のショックで自衛隊を除隊しイスラム国入りした元夫によるリベンジポルノを「ダメよ~ダメダメ」と積極的平和主義のスタンスで限定容認しつつ、こぴっとモデルに転身したのであった。

「レリゴー!」
ディレクターの妙な掛け声を合図に、CM撮影がスタートした。雨が激しく降っている。輝く女性が雨傘革命を広げる。雨は防がれるどころか、より濡れる。そういう商品だからそれでいい。

だが背景に映っているビルつまりバックビルディングの窓から、顔中に塩レモンを貼りつけた女装子が妙なタイミングで顔を出すものだから、何度もNGが出た。そのたびにカメラが止まり、ずぶ濡れの輝く女性にペイズリー柄のバスタオルが巻かれる。

「STAP細胞はありますよね、きっと……」
輝く女性はバスタオルを持ってきてくれたアルバイトのリトル本田(上司のクリエイティブディレクターも本田姓なので、若い彼はそう呼ばれている)に、ペイズリー柄から咄嗟に連想した言葉を投げかけ、気まずい間を埋めた。いつもありのままで塩対応ばかりしている輝く女性にしては、珍しい気遣いだった。

「可能性的にはハーフハーフじゃないっすか?」
リトル本田の返答は、今どきの若者らしくそっけないものだった。そんなことよりも、彼は本田圭佑の真似をしてわざわざ両腕に巻いている妖怪ウォッチのレンズ表面についているミドリムシが気になって仕方なかった。微生物まで見えるとは、恐ろしい視力である。それが彼の唯一の取り柄だった。

しかし彼にも優しさはあった。バスタオル程度では震えが止まらぬ輝く女性を見かねたリトル本田は、このままではデング熱もしくはエボラ出血熱にでもかかってしまうのではと無知ゆえに心配になり、自ら着ているトリクルダウンを脱いで彼女に羽織らせた。するとカラスの大群がどこからか現れ、一斉に彼女にマウンティングしてきた。

「あ、これ、トリクルダウンなんで」
トリクルダウンとは、ダウンつまり鳥の羽で作られていながらも、いやだからこそ鳥が好んで寄って来るという、鳥好きのためのダウンジャケットであった。羽毛に振りかけられたケンタッキーフライドチキンのスパイスが肝だとの噂もある。日本野鳥の会の人は皆これを着ている。カーネル・サンダースも着ていたらしい。リトル本田の趣味は危険ドラッグを服用しながらのバードウォッチングであった。だが何がどう心に響くかはわからないものだ。輝く女性はトリクルダウンを羽織らせてくれた彼の優しさに感動し、ふたりはつきあうことになった。

普通ならばこれをきっかけに鳥嫌いになりそうなものだが、彼を愛した彼女はむしろ彼が愛する鳥をも愛するようになり、ふたりでバードウォッチングを楽しむようになった。もともと広島県出身で生粋のカープ女子だった輝く女性は、鳥への愛情を示したいというだけの理由でヤクルトスワローズファンに鞍替えさえした。

ある日、彼の部屋でふたり仲良くテレビを観ていると、あの日撮影した雨傘革命のCMが流れた。あれはふたりにとって初めての共同作業だった。モデルの彼女が言ったはずの台詞はすべて消され、上から『象印クイズ ヒントでピント』でお馴染みのレジェンド司会者、土居まさる(通称:まさ土)のナレーションがかぶせられていた。少し哀しかった。ふたりは同棲をはじめた。幸せを知った。

だが幸福な日々は長くは続かなかった。このふたりさえいれば、勝てない相手はもういないと思えたあの誇らしい日々は、輝く女性の家事ハラをきっかけにもろくも崩れ去った。夫は広告会社のアルバイトを辞め、業界の怪しげな友人と、「一緒に湯に入りながら小津映画を観る」という斬新なJKビジネス「ゆづ」を始めた。そんな夫に不満を募らせた輝く女性は昼顔妻になった。いろんな男に壁ドンされた。

ふたりは離婚した。慰謝料はビットコインで支払われた。すでにモデルとして有名になっていた彼女の離婚会見は誰も手伝ってくれなかったため、ワンオペの号泣会見になった。泣いたのはもちろん、自らのイメージをアップするためだった。すぐに柔軟剤のCMオファーが来た。

ところで輝く女性が大量に飼ってしまった鳥たちは、いったいどこまで増え続けるのだろう。新沼謙治さんあたり、もらってくれないかしら。このままでは人口の減少が止まらぬ消滅可能性都市は、いつか鳥類に支配されてしまうかもしれない。それがつまり僕らの由々しき2025年問題。


《新語・流行語大賞候補語一覧》
輝く女性/STAP細胞はあります/バックビルディング/まさ土/トリクルダウン/デング熱/ダメよ~ダメダメ/2025年問題/危険ドラッグ/アイス・バケツ・チャレンジ/家事ハラ/マタハラ/ありのままで/レリゴー/こぴっと/ごきげんよう/リトル本田/J婚/ゴーストライター/タモロス/マイルドヤンキー/リベンジポルノ/JKビジネス/絶景/レジェンド/ゆづ/妖怪ウォッチ/塩対応/マウンティング(女子)/こじらせ女子/女装子/号泣会見/セクハラやじ/集団的自衛権/限定容認/積極的平和主義/勝てない相手はもういない/カープ女子/ワンオペ/ハーフハーフ/消滅可能性都市/壁ドン/ミドリムシ/壊憲記念日/イスラム国/雨傘革命/昼顔/塩レモン/ビットコイン/エボラ出血熱

※本文中には、新語・流行語の意図的な誤用が含まれております。各自正しい意味をお調べになることをお勧めします。
※この小説は、新語・流行語大賞の候補語50個すべてを本文中に使用するという、きわめて不純な動機でのみ書かれたフィクションです。

 

 

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